第一章:発症 (No.26)
- 2015/12/24
- 19:00
次郎が脳出血で倒れ 救急病院に入院してから、入院代以外にも色々とお金が必要だった。まず、タオルや寝巻き代。ここの病院では、基本は自分もしくは家族が持ってくるシステムだった。実際に病院内には、洗濯機と乾燥機が備えてあった。自分で動ける患者は、持ち込みのタオルや寝巻きなどを洗濯機に入れ コインを投じて洗っていた。しかし、次郎は自分で歩くことすら出来ないので、家族の者が洗濯をする事となる。妻の美和子は、当...
第一章:発症 (No.25)
- 2015/12/20
- 18:30
次郎は、脳出血で倒れ、救急車に乗っている時から常に “大きな顔” の幻覚に悩まされた。次郎が眠りについた時や、痛みなどが無くボンヤリ出来る時に限って、大きな顔は現れる。目を閉じて楽にしていると、真っ黒の噴煙のようなものが、突然に四方八方から迫って来る。怖いし息苦しから逃げたいのだけれど、四方八方からだから逃げられない。そのうちに黒い噴煙が、巨大なキツネ目をした顔に変わる。恐ろしいので目を開けるとその幻...
第一章:発症 (No.24)
- 2015/12/16
- 17:30
間もなく次郎は、頭を高くした担架にゆっくりと置かれ、担架ごと救急車に乗せられた。妻の美和子が「この人は公立病院に通院しているので 公立病院に行ってください」と希望した。救急隊員は美和子に返事をし、自動車電話で公立病院へ受け入れ確認の電話を掛けた。消防署が保有する救急車というは、救急指定病院にしか向かわない。大きな病院なら何処へでも行くというものではないのだ。また、救急指定病院も、怪我や病気の重篤度...
第一章:発症 (No.23)
- 2015/12/11
- 19:30
「もう駄目かもしれない」そう自分の潜在意識がスピーチするのと、妻の美和子が声を掛けるのは次郎にも聞こえていた。「ちょっと!大丈夫 !? ねぇ!大丈夫 !?」そう繰り返し大声で怒鳴る美和子の声は、潜在意識のスピーチと同様に煩かった。大丈夫じゃないのは 見れば分かるだろう!と怒鳴り返したかったが、次郎は何も出来なかった。まるで夢を観ているように、言いたい事を言ったりできなかった。自分がコントロールできない、...
第一章:発症 (No.22)
- 2015/12/05
- 17:30
この日 恵祐と母親の美和子は、ナースステーションに呼び出された。勿論、父親の次郎の症状についての話しだろうとは予想はしたが、次郎が居ない所で話すとは何なのだろうか。疑問に思いながらも、案内する看護師に付いていった。二人がナースステーションに入り椅子を案内されると、美和子は盛んに「ご迷惑掛けてしまって本当に申し訳ないですぅ」と大声で言っているが、恵祐は早く本題を聞きたかった。美和子の言葉を遮るように...
第一章:発症 (No.21)
- 2015/12/03
- 19:30
次郎にとって、脳出血を発症したときは、何が何だか分からなかった。妻の美和子と帰宅を始めていたのだが、登りの階段がとても辛かったのは覚えている。足が疲れて階段がキツイというのではなく、足が言うことを聞かないという感じだった。先ほどまで意識せずとも右足左足と前に出ていたのに、歩こうとしても言うことを聞かないのだ。美和子に支えられ、何とか階段を登り終え、「タクシーで帰ろう」と美和子が言った事は聞こえてい...
第一章:発症 (No.20)
- 2015/11/29
- 19:30
『脳室ドレナージ』という 脳に注射針のような管を刺して液体を体外に出す手術は、結局取り止めとなった。肺炎により発熱しているので 手術を引き延ばしにしていたのだが、そうこうしているうちに脳内の出血も水頭症もすっかり治まってしまったのだ。肺炎は兎も角、脳の状態が安静したことは、恵祐も美和子も嬉しかった。次郎が左半身麻痺、嚥下障害、構語障害、右空間無視という障害を負ったものの、これ以上の障害を被らなくて何...
第一章:発症 (No.19)
- 2015/11/25
- 17:30
脳出血の患者が ICU 集中治療室を出るという事には、ふたつの可能性がある。ひとつは、患者の状態が良くなってきて、もうそこに居る必要が無くなったということ。もうひとつは、後から救急搬送されて来た他の患者数が、ベッドの数を上回ったということ。次郎場合、どうやら後者の様子だった。というのは、恵祐と美和子が5階に有る脳神経外科病棟を始めて訪ねたとき、父親の次郎の “装備” は変わらなかったからだ。右視床での出血...