第一章:発症 (No.20)
- 2015/11/29
- 19:30
『脳室ドレナージ』という 脳に注射針のような管を刺して液体を体外に出す手術は、結局取り止めとなった。
肺炎により発熱しているので 手術を引き延ばしにしていたのだが、そうこうしているうちに脳内の出血も水頭症もすっかり治まってしまったのだ。
肺炎は兎も角、脳の状態が安静したことは、恵祐も美和子も嬉しかった。
次郎が左半身麻痺、嚥下障害、構語障害、右空間無視という障害を負ったものの、これ以上の障害を被らなくて何よりだ。
というのは、視床という深い所に脳室ドレナージ手術をした場合、新たな脳損傷を避ける事ができないからだ。
今日の次郎は熱も下がっていた。抗生剤が効いたのだ。
抗生物質を注射すると途端に熱が下がり、恵祐は「良い時代になったな」と思った。
しかし、当時の恵祐は、今後自分の父親が、何度となく肺炎を起こす事を知らなかった。
細菌性肺炎を短期間で何度も繰り返すということは、種類の違う細菌に感染するという事だ。
抗生剤を投与した後、人の体はその細菌に対する抵抗力を学習する。
だから、同じ細菌が再度体内に入って来た場合は肺炎が起きにくい。
体が「この菌が体に悪い」と学んだため、マクロファージなどがその細菌を叩く(捕食する)のだ。
しかし、別の種類の細菌を体はまだ知らない。だから別の菌が侵入した場合はマクロファージは何もしない。
そして再度肺炎となり発熱となる。
この時 ドクターは、前回の種類の細菌に感染したのではないと知っているから別の抗生剤を探すわけだ。
血液検査により何の細菌に感染したのかは、はっきり分かる。
その結果を基に適する抗生剤を投与すれば必ず完治する。
しかし、血液検査の結果が出るのは3〜4日くらい掛かる。
体の弱った人が3日も治療しないでいると致命的なので、血液検査の結果を待っていられない。
それで、ドクターの予測した抗生剤を選んで投与するのだ。
予測なので、当たる事もあれば ハズレる事もある。
注射して十数時間経っても熱が下がらない場合はハズレということで別の抗生剤を打つ。
それもハズレならまた別のを打つ。 当たるのを待つわけだ。
次郎のような体が著しく弱った人には、この期間は大変に危険である。
ただ、優秀なドクターは何の細菌が流行しているかを考えている。
例えば、次郎が最後にお世話になる、つまり息を引き取る事になる病院では毎回大当たりだった。
その理由は、その病院のドクターが 感染の流行を把握していたからだ。
外界と違い、入退院が比較的少ない介護病棟では、先に何人かがAという細菌感染になったという結果が有る場合、次郎にもAが感染したのだろうと予測するわけだ。
限られた空間である病棟ではこの作戦が効果的なようだ。
勿論、面会者や職員が、新たな細菌を運んで来る可能性もある。
だから、外来者はマスク着用をするべきなのだ。
(つづく)
大切なあなたが 幸せでありますように。
相談屋さん カフェカウンセリング 横尾けいすけ
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